知っておきたいマイクの種類や性能などをまとめました(後編)
マイク後編です。
なかなか難易度の高い内容になってしまいました…。くじけずついてきていただけるとうれしいです。
「GAIN」と「TRIM」で入力信号を整える!
前回は「PADスイッチの無いポータブルマルチミキサー AT-PMX5Pはどうやってレベル調整するの?」というところで終わりました。
よくよく見てみると「MIC」や「LINE」の印字もありません。さてどうしましょうか?
ところで、MG10XUFで搭載されているPADスイッチは「入力信号を弱める」働きがありました。
一方、AT-PMX5Pは
「GAIN・TRIM(ゲイン・トリム)」という機能で「入力信号を強める」働きかけができる
のです。
実際にを見てみましょう。
下の写真で本体に「TRIM」と書いてあるノブがあることが確認できます。右に回すと「MIC」、左に回すと「LINE」の信号を受けられるような感じがしますね。
AT-PMX5PのTRIMノブ
機材によって記載が異なる「GAIN(ゲイン)」と「TRIM(トリム)」ですが、ほぼ同じ意味、機能と捉えてOKです。どちらも入ってきた信号を調整します。
TRIMの働きを仕様でも確認しておきましょう。
AT-PMX5P|AVアクセサリー(公式ページ)のサポートタブから取扱説明書を確認できます(1枚目のテクニカルデータが仕様です)。
必要なデータを抜粋したものが下の表です。
定格入力 | +10dBV(TRIM=MIN) | -50dBV(TRIM=MAX) |
---|
定格とは、最大値とか限界値という意味ですので、これを言い換えると
このミキサーは-50dBV〜+10dBVまでの入力信号に対応できるよ
となります。
※dBVってなんじゃ?となりますが、1V(ボルト)を基準としたdB(デシベル)です。この説明でも?だとは思いますが…
蛇足ですが別の言い方をすると、こんな感じです。
・「TRIM=MIN(最小)」のとき、つまり増幅をしないときは+10dBVまでの信号が入力できます。
・「TRIM=MAX(最大)」のとき、つまり最大まで増幅するときは-50dBVもの小さい信号まで入力できます。
上下にスライドできるレバーは「フェーダー」と呼ばれ、こちらは通常、出力レベルを調整するものです。
入力レベルを調整するときは紹介したゲイントリムを使いましょう。
dBVって単位が出てきたけど、「マイナス」が付いてるのはどういうことなんスか。
何と引き算してるわけ?
「マイナス」が付いたdBVですが、これはマイナス(負)の値というわけではなく、何かと引き算するためのマイナス(符号)でもありません。
デシベルというのは対数で表した比の表現なので、
基準値より小さい値がマイナス表記になっているのです(基準値を1倍としてるのでそれより小さい倍率、例えば0.9倍とか0.1倍とか0.02倍とかいろいろです)。
たぶん、わけがわからないと思いますが、
dBVなどに「マイナス」が付いた値は、1よりもずっと小さい値なんだ
と理解しておけば大丈夫です。
※対数とは、数学で勉強した人もいるかと思われる「log」ってやつです。詳しくは「デシベル 対数」と検索してみてください。
「入力できるレベル」を見てきたのですから、「出力されてくるレベル」も見ておきましょう。
ミキサーに繋ぐ機器としてはマイクの定番「SHURE SM58S」が最適でしょう。
SHURE SM58S
さっそく仕様を見てみると、開回路感度という項目があり、その値は[-54.5dBV/Pa(1.85mV)]とあります。
AT-PMX5Pは-50dBV〜+10dBVの入力信号まで対応できるとなっていましたので、-54.5dBVは範囲外、少し小さすぎる信号になります。
なら使えないのかー…いえ、使えます!
開回路感度とは「対応できる一番小さい信号レベル」のことなので、ごく小さなささやきごえではなく、普通にしゃべったり歌ったりする用途なら、SM58SとAT-PMX5Pの組み合わせでも十分活用できると言えます。
※-50dBVと-54.5dBVですが、大体3倍くらいの差があります。
実際に「SM58S - XLRケーブル - XLR-フォーン変換 - AT-PMX5P」とつないで試したところ、何の問題もなく使用できました。
AT-PMX5PでSHURE SM58Sを使う
業務用機材の入出力レベルのお話もしたいのですが、さらに難しくなるため後半のおまけとして扱います。
マイクにあった電源を供給しよう
ちょっと!AT-PMX5PにMKH416っていう高性能っぽいマイクつないだけど音が出ないんだけど!?また不良品?
不良品ではないです…。
仕様を見てみるとMKH416の開回路感度は「25mV/Pa ±1dB」とありますので、SM58Sより大きな音なら問題ない範囲に思えます。(※)
それではなぜ音が出ないのでしょうか。
それはMKH416は電源供給が必要なコンデンサーマイクだからです。
※dBVになるように数値を計算すると-32dBVくらいです
XLRから供給できる「ファンタム電源」
ファンタム電源(またはファントム電源)とは、主に業務用の機材、カメラなどに搭載されている「XLR端子から接続機器へ送れる電源」のことです。
上のおねいさんの使い方で誤っているところは、「XLR-フォーン変換アダプターを使ってつないでいる」と「AT-PMX5Pにファンタム電源供給能力がない」の2点です。
1点目、ファンタム電源はXLRで接続しないと流れません。もしAT-PMX5Pにファンタム電源が搭載されていたとしても、端子を変換してつないだなら供給することができません。
ファンタム電源を供給するには必ずXLRケーブル(キャノンケーブル)で接続する必要があります。
2点目、文字通りですがAT-PMX5Pにはファンタム電源を供給する機能がありません。XLRでつなげたとしても流れないのです。
SM58Sがただつないだだけで使えた理由は「ダイナミックマイクだから」です(前編で説明しました)。
コンデンサーマイクであるMKH416は、ファンタム電源を供給しないと動かないのです。
ミニプラグから供給できる「プラグインパワー」
ファンタム電源は業務用ですが、民生用(家庭用)にも似たような電源供給の方法があります。それがプラグインパワーと呼ばれるものです。
AT-PMX5Pの3.5mmミニプラグ端子にはプラグインパワー機能が備わっていて、そこにつないだマイクへ電源供給が可能となっています。
特別な設定は不要で、プラグインパワー対応のマイクならつなぐだけで使えます。
前編で載せた端子の写真も、よく見ると「PLUG IN POWER」と書いてあります。
このミキサーのように、例えばビデオカメラやミラーレスカメラにミニプラグのマイク入力があれば、ほとんどがプラグインパワーに対応している機材です。
ファンタム電源と比べると、プラグインパワーから供給される電源は非常に小さいものになるため、ファンタム電源が必要なコンデンサーマイクをプラグインパワーで代用して使うことはできません。
この節のまとめとして、接続機器の方も見ておきましょう。
以下はMG10XUFですが、「PHANTOM +48V」というスイッチが確認できるでしょうか。
MG10XUFのPHANTOM電源スイッチ
MG10XUFはファンタム電源供給はCH1-4がひとまとめになっています。入力端子はXLT/TRSコンボジャックでしたので、ファンタム電源を供給するときはきちんとXLRケーブルでつなぐことを忘れないようにしましょう。
MACKIEのアナログミキサー 1402VLZ4は、パネル正面ではなく背面に「PHANTOM ON」と書かれたファンタム電源のスイッチがあります。
MACKIE 1402VLZ4のPHANTOM電源スイッチ
- 電源供給のまとめ
- ・マイクをつないだだけでは正常に音がでないマイクがあり、適切な電源を供給することで動作する
- ・コンデンサーマイクにはファンタム電源を供給する
- ・ファンタム電源を供給するにはXLRケーブルで接続する
- ・ダイナミックマイクには電源供給しない(前編のお話)
- ・ミニプラグから電源供給するプラグインパワーというものもある
次回最終回
前後編でお送りしましたマイク回りの説明ですが、今回でひととおり終わりです。
マイクの端子や種類、「レベル」「ゲイン」「トリム」、そして「電源供給」のお話でしたが、理解できましたでしょうか?
難しくてよくわからない…という方がいらっしゃいましたら自分の力不足です、申し訳ないです。
次回は特別編として、復習や確認の意味を込めてケーススタディをお届けしたいと思います。
多分一連の記事でいちばん役立つ内容ですので是非チェックしてみてくださいね!!
おまけ
「GAIN」と「TRIM」の節ではAT-PMX5Pを例にお話ししましたが、より複雑な業務用ミキサーの場合は、どういう考え方が必要でしょうか。
なかなか難しいお話なので、ここからは興味がある方のみ読んでみてください。
まずはYAMAHA MG10XUFの仕様を見てみましょう。
YAMAHA MG10XUF仕様
MG10XUF アナログ入力規格という表の入力レベルのところを抜粋したものが以下です。
入力レベル | ||
---|---|---|
感度 | ノミナルレベル | 最大ノンクリップレベル |
-80 dBu (0.077 mV) |
-60 dBu (0.775 mV) |
-40 dBu (7.75 mV) |
-36 dBu (12.3 mV) |
-16 dBu (122.8 mV) |
+4 dBu (1.228 V) |
-54 dBu (1.55 mV) |
-34 dBu (15.46 mV) |
-14 dBu (154.6 mV) |
-10 dBu (245 mV) |
+10 dBu (2.451 V) |
+30 dBu (24.51 V) |
さすが業務用機材、一気に情報量が増えましたね!
「dBV」ではなく「dBu」という単位が使われていますが、基本は同じです。
情報をすっきりさせていきます。
真ん中の「ノミナルレベル」は公称値になるので、邪魔ですから省いちゃいましょう。
「最大ノンクリップレベル」は、ひずむ(クリップ)手前のレベルのこと、つまり入力できる最大値のことです。
そしてかっこ内のmVの値はとりあえず不要なので消して、見出しもわかりやすい言い回しに変更してみます。
また4行あるのはPADスイッチのONOFFなどの条件が分かれているためなので、その情報を左列に追加してみます。
最小の入力レベル | 最大の入力レベル | |
---|---|---|
PAD OFF かつ ゲイン最大 | -80 dBu | -40 dBu |
PAD OFF かつ ゲイン最小 | -36 dBu | +4 dBu |
PAD ON かつ ゲイン最大 | -54 dBu | -14 dBu |
PAD ON かつ ゲイン最小 | -10 dBu | +30 dBu |
いかがでしょう。わかりやすくすっきりしましたね。
この表からわかることは、
このミキサーは-80〜+30dBuまでの入力信号に対応できるよ
言い換えると-80dBuより小さいときちんと聞こえるまで増幅できないし、+30dBuより大きいと歪んじゃってダメだよってことになり、PADスイッチを使うか使わないかで範囲も異なるため、きちんと見極める必要があることもわかります。
結局「dBu」ってなんだったの!?
きちんと説明しなさい!
ヒィすいません。
dBVとdBuは同じような単位なのですが、基準とする値が異なるため単位も異なっているだけで、どちらも「dB(デシベル)」に、つまり信号の大きさを表している値なのだとお考えいただいてほぼ差し支えありません。
具体的なお話は避けさせていただきますが気になる方はググってみてください。
なお「dBV」は民生用の機器、「dBu」は業務用の機器で使われています。